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労務関係

管理モデルとは?社員の副業・兼業の労働時間や割増賃金をどう計算する?

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2022年7月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定され、今後は、労働者の副業や兼業が国の政策として推進されるようになります。

ただ、労働者が複数の会社で働く場合、「労働時間の管理」をいかに行うかが大きな問題となります。

労働者の労働時間を管理・把握することは、労働者の健康管理や、割増賃金の算出をする上でとても重要です。

ただ、自社と関係のない別会社で、労働者が何時間働いているか、正確に把握するのは容易ではありません。

そこで厚生労働省では、効率的な労働時間の管理方法として「管理モデル」を紹介しています。

今回は、管理モデルの内容や、導入の流れなどについて解説したいと思います。

副業・兼業の労働時間や割増賃金の計算は複雑


会社は、従業員が副業や兼業をする場合、労働時間や割増賃金について、すべての事業場を通算して管理しなければなりません。

例えば、労働基準法上「労働者の時間外労働は月100時間未満・複数月平均80時間以内にしなければならない」とされていますが、この上限を超えるかどうかは、すべての事業場の労働時間を通算して判断されます。

そのため、会社はその従業員が自社で何時間働いたかだけでなく、副業先や兼業先で何時間働いているかを把握する必要があるのです。

しかし、従業員が自社以外の会社で何時間働いているかは、基本的に労働者の申告でしか調べることができず、会社がすべての労働時間を正確に把握することは困難です。

また、会社は法定外労働や休日労働に対して、割増賃金を支払わなければなりません。

しかし、従業員が副業や兼業をしている場合、割増賃金をどの会社がいくら払わなければならないのか、計算が難しいケースがあります。

厚生労働省が提示する「管理モデル」とは?

近年、働き方改革や新型コロナの影響等により、副業や兼業は、国家の施策として強く推進されています。

しかし会社が、副業先や兼業先の労働時間を正確に把握することは困難であり、割増賃金の計算も複雑になる可能性があります。

そこで厚生労働省では、2022年9月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、管理モデルを提示しています。

管理モデルとは、「労使双方の手続き負担を軽減するとともに、労働基準法に定める最低労働条件が遵守されやすくなる労働時間管理の方法」のことをいいます。

下記では管理モデルについて、具体例をあげながら解説をしていきます。

労働時間の管理モデル

管理モデルでは、先に労働契約を締結した使用者の法定外労働時間と、後に労働契約を締結した使用者の労働時間(所定労働時間および所定外労働時間)を合計した時間数が、月100時間未満・複数月平均80時間以内となるように上限を設定します。

法定労働時間とは、労基法で原則として上限とされている労働時間(1日8時間・週40時間)のことをいい、所定労働時間とは就業規則や雇用契約書に記載されている労働時間のことをいいます。

例として、先に労働契約を締結した会社をA社、後から労働契約を締結した会社をB社とします。

A社が法定外労働時間の上限を40時間と設定した場合、B社の単月の労働時間(所定労働時間および所定外労働時間)を60時間未満、複数月平均40時間以内で設定をします。

そして、A社とB社は労働者を通じてこの上限設定で合意をします。

A社とB社がそれぞれ労働時間に上限を設定することで、労基法上の最低労働条件に違反しないよう労働時間の管理をすることが可能になるのです。

36協定の規定は通算されないので注意

労働基準法38条では「労働者の労働時間は月100時間未満、複数月の平均は80時間以内にしなければならない」旨が定められています。

この規定は、個々の労働者を保護するための規定なので、従業員単位で適用されます。

そのため、労働者が複数個所で労働をする場合、その労働時間を通算して、上限を超えないかどうかが判断されるのです。

これに対して、36協定について定めた労基法36条の規定は、個々の事業場に対する規定です。

そのため、労働時間が法定労働時間を超える場合は、個々の事業場ごとに36協定の締結が必要になるので注意しましょう。

上記の例でいくと、A社では法定外労働時間が発生しているため、36協定が必要となり、B社でも所定労働時間および所定外労働時間が法定労働時間を超える場合には、36協定の締結が必要となります。

割増賃金の計算はどうなる?

管理モデルでは、割増賃金の支払いは次のように算出をします。

先に労働契約を締結した会社(A社)は、自らの事業場における法定外労働時間について、後から労働契約を締結した会社(B社)は、自社の事業場における労働時間(所定労働時間+所定外労働時間)について、それぞれ割増賃金を支払います。

仮にA社・B社ともに時給1,000円(割増賃金1,250円)、A社の法定外労働時間が月10時間、B社の所定労働時間および所定外労働時間が月20時間とした場合、A社は12,500円(1,250円×10時間)、B社は25,000円(1,250円×20時間)の割増賃金を支払う必要があります。

このようなルールを設定することで、A社とB社はそれぞれ互いの労働時間を把握していなくても、割増賃金を算出することができます。

管理モデルの導入の流れ

厚労省のガイドラインによると、管理モデルは次の流れで導入するとされています。

  1. 本業の会社(A社)が、副業先や兼業先の会社(B社)で働くことのできる労働時間、および通算した労働時間に上限を設定する
  2. A社は副業・兼業を申し出た従業員に、1で定めた上限内で働くよう求める
  3. A社は労働者を通じてB社に上限を通知し、両社がその範囲内で労働時間を設定することに合意する

なお、管理モデル導入後に、先に労働契約を締結したA社において、労働時間の上限を変更する必要が生じた場合には、あらためて労働者を通じて、後に労働契約を締結したB社に通知し、B社の上限を変更してもらうことが考えられます。


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まとめ


従業員が副業や兼業をする場合、会社はその従業員について、労働時間を適切に管理する必要があります。

自社の労働時間だけでなく、副業先や兼業先の労働時間までしっかり管理しないと、安全衛生上の問題や労基法違反などの問題が生じる可能性があるからです。

ただ、会社が別の会社の労働時間を把握することは容易ではありません。

そこで、厚生労働省では、より効率的に労働時間の管理ができるよう「管理モデル」を提示しています。

副業や兼業を認めている会社では、是非参考にしてみてください。

管理モデルについて「もっと詳しく知りたい」「社労士に相談してみたい」という方は、ぜひSATO社会保険労務士法人にご相談ください。

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