会社役員や取締役も雇用保険に加入できる?兼務役員のポイントを解説
会社役員や取締役は、基本的に雇用保険に加入することはできません。
ただ、その役員が「兼務役員」に該当する場合には、例外的に加入できるケースがあります。
そこで今回は、兼務役員にあたるかどうかのポイントや、兼務役員が雇用保険に加入する際の手続き等について、わかりやすく解説したいと思います。
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原則として会社役員や取締役は雇用保険に加入できない
会社役員や取締役は、原則として雇用保険に加入することはできません。
それは、会社役員や取締役が労働者ではないためです。
そもそも、雇用保険は労働者が失業した場合に、必要な給付をすることで、生活の安定や再就職の支援を行うための保険制度です。
しかし、会社役員や取締役は、使用者であって労働者ではないため、原則として雇用保険に加入することができないのです。
ただ、会社役員や取締役であれば常に雇用保険に加入できないか、というとそうではありません。
会社役員や取締役が兼務役員に該当する場合は、例外的に雇用保険に加入することが可能です。
兼務役員であれば会社役員や取締役も雇用保険に加入できる
会社役員や取締役は、原則として雇用保険に加入することはできませんが、例外的に兼務役員に該当する場合は加入できるケースがあります。
兼務役員というのは、簡単にいうと「従業員としての地位を有する会社役員」のことをいいます。
例えば、会社によっては取締役でありながら、会社の事業部長や支店長、工場長などを兼務しているケースがあります。
このように会社役員や取締役であっても、会社と雇用契約を締結しており、かつ、労働者性があると判断された場合には、兼務役員として雇用保険に加入できるのです。
労働者性を判断する3つのポイント
会社役員であっても、会社と雇用契約を締結し、かつ、労働者性が強い場合には、兼務役員として雇用保険に加入することが可能です。
ここで問題になるのが、どういう場合に労働者性があると判断されるかという点です。
兼務役員の労働者性については、就業実態を総合的に見て判断しますが、主なポイントは次の3つです。
会社の代表権をもっているか
会社役員や取締役が会社の代表権を持っている場合、労働者性は認められません。
会社の代表権とは、会社の代表者として取引や業務をする法令上の権限のことをいいます。
会社の代表権を持っているのは使用者であって、労働者ではないため、代表権を持つ代表取締役や代表執行役に労働者性は認められません。
就業規則の適用を受けているか
会社役員や取締役が就業規則の適用を受けているかどうかは、労働者性を判断する重要なポイントの1つです。
就業規則は、原則として労働者のみに適用されるため、会社役員や取締役が就業規則の適用を受けていないと労働者性がないと判断されやすくなります。
例えば、就業規則に規定されている労働時間とは無関係に就業したり、賃金規定に基づかない給与の支払いを受けている場合、労働者性が認められにくくなります。
従業員として支払われる賃金が役員報酬を上回るか
通常、兼務役員は役員報酬と従業員として支払われる賃金の2つを受け取っています。
この2つを比較して、従業員として支払われる賃金が役員報酬を上回る場合、労働者性があると判断されやすくなります。
なぜなら、従業員として支払われる賃金が役員報酬を上回る場合、兼務役員は従業員としての役割が大きいと判断されるためです。
兼務役員として雇用保険に加入するための手続き
兼務役員として雇用保険に加入するためには、その労働者性を証明するため、「兼務役員雇用実態証明書」を作成し、ハローワークに提出しなければなりません。
具体的な手続きは下記の通りです。
必要書類 | 兼務役員雇用実態証明書 |
目的 | 兼務役員の労働者性を証明する |
提出先 | 事業所を管轄するハローワーク |
提出期限 | 雇用保険の資格取得と同時に提出する場合は、被保険者となった日の属する月の翌月10日まで すでに被保険者である者が兼務役員になった場合は速やかに提出する |
添付書類 | 法人登記簿膳本 定款 就業規則・給与規定・役員報酬規程など 雇用契約書・賃金台帳・労働者名簿など 組織図 役員就任に関する取締役会議事録 すでに被保険者資格を取得している場合は資格取得等確認通知書 |
ハローワークによって、添付書類や書式が異なる場合があるので、手続きをする際は事前に管轄のハローワークに確認するようにしましょう。
「兼務役員雇用実態証明書」が必要なケース
兼務役員が雇用保険に加入するケースとしては主に次の2つのパターンがあります。
- 役員が事業部長や支店長などに就任することで兼務役員になるケース
- 事業部長や支店長が役員に就任することで兼務役員になるケース
いずれの場合も、雇用保険に加入する場合は「兼務役員雇用実態証明書」の提出が必要です。
どちらのパターンかによって、提出期限が異なるので注意しましょう。
役員報酬が無報酬の場合でも提出が必要
会社役員や取締役が、兼務役員として雇用保険に加入する場合、「兼務役員雇用実態証明書」の提出が必要です。
役員として報酬があったかどうかは関係がありません。
そのため、役員報酬が無報酬であって、従業員としての給与しか受け取っていない場合であっても、雇用保険に加入するには「兼務役員雇用実態証明書」を提出しなければならないので注意しましょう。
「兼務役員雇用実態証明書」の提出を忘れたらどうなる?
「兼務役員雇用実態証明書」は、兼務役員の労働者性をハローワークが判断するために必要となる書類です。
そのため、「兼務役員雇用実態証明書」の提出を忘れると、あとになって、兼務役員の労働者性が否定される可能性があります。
その場合、遡って雇用保険の資格喪失手続きが必要になるなど、会社に大きな負担がかかる可能性があります。
兼務役員が雇用保険に加入するときは、必ず「兼務役員雇用実態証明書」を提出するようにしましょう。
まとめ
基本的に、会社役員や取締役は雇用保険に加入することはできません。
しかし、会社役員・取締役が兼務役員に該当し、労働者性が認められれば、雇用保険に加入することが可能です。
兼務役員の労働者性は「代表権の有無」「就業規則の適用があるか」「給与が役員報酬を上回るか」という3つの点から判断されます。
兼務役員として雇用保険に加入するには「兼務役員雇用実態証明書」を作成し、管轄のハローワークに提出しなければなりません。
「兼務役員雇用実態証明書」を提出しないと、遡って資格喪失の手続きが必要になる可能性があるので注意しましょう。
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