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医療の2024年問題とは?医師の働き方改革をわかりやすく解説

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目次

働き方改革における労働基準法の改正により、時間外労働の上限が法律で定められ、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から適用されています。

ただし、特定の業種や業務には5年間の猶予期間が設定され、その期限が2024年3月31日に迫っています。

2024年4月1日からは、猶予期間が終了し、時間外労働の上限が適用されることになります。

この猶予期間が設けられた理由は、特定の業種や業務において常態化している、長時間労働です。

その背景には、業務の特性など様々な課題が含まれており、その業種の中には、医業に従事する医師も含まれています。


今回は、私たちの生活に密接に関わる医療の2024年問題に焦点を当て、詳しく解説していきます。



医療の2024年問題とは?


医療の2024年問題とは、2024年4月1日以降、医師の働き方改革が実施されることで生じる様々な課題を指します。

2024年4月1日以降、雇用されている勤務医には時間外・休日労働時間の上限規制が適用されます。

同時に、連続勤務時間制限や長時間勤務医師の指導など、勤務医の健康を守るための新ルールが導入されます。

現在の日本の医療業界では長時間労働が横行し、人手不足が深刻な問題となっています。

そのような状況下で、医師の労働時間に関する取り決めが中心となる「医師の働き方改革」は、極めて厳しい条件と言えるのです。

医師の働き方改革推進の背景

日本の医療業界では、医療従事者が日々努力を重ね、必要な医療を提供しています。

しかしその裏では、医師が長時間労働を強いられている現状があります。


2019年に行われた厚生労働省の医師勤務実態調査によると、病院で勤務する医師の約40%が年間960時間を超える時間外・休日労働を行っており、そのうち約10%が年間1,860時間を超える長時間労働をしていることがわかりました。

2023年の調査結果では、年間960時間を超える時間外・休日労働を行う医師の割合は20%に減少しており、2024年の働き方改革に向けた取り組みが進んでいることが分かります。

ただし、脳神経外科、外科、形成外科、産婦人科、救急科などでは、まだまだ年間1,860時間を超える医師が多く見られ、課題が残されています。

医師の長時間労働の理由としては、患者への説明や記録作成など、多岐にわたる業務や宿直や夜間勤務などの特殊な勤務体系が挙げられます。

これにより睡眠不足に陥ると、勤務中に眠気を覚え、作業能力の低下や医療事故リスクが増大します。


このような現状の中でも、将来、医療ニーズの変化や高度化、少子化による医療人材の減少が進む中で、医師個人の負担が増大することが予想されています。

今後も地域の医療を維持し、多様な医療従事者が働き続けるためにも、医師の働きやすい環境を整えることが重要視され、医師の働き方改革が本格的に推進されることとなりました。

参考;厚生労働省HP「第18回医師の働き方改革の推進に関する検討会」 資料2 - 医師の勤務実態について

医師の働き方改革の主なポイント


2024年4月1日から適用される、医師の働き方改革のポイントについて2点解説していきます。

時間外労働の上限規制について

今回の医師の働き方改革において、中心的な取り組みとなるのが『時間外労働の上限規制』です。

2024年4月1日以降、診療に従事する医師は、時間外・休日労働時間の上限規制が適用されます。

この規制は、その医師が勤務する医療機関での全ての労働時間を通算し、時間外・休日労働時間を算出して適用されます。

具体的には、医師の時間外・休日労働時間は、原則として年間960時間以下に制限されます(A水準)。

ただし、医療機関が都道府県から特例水準の指定を受けた場合、年間1860時間以下の時間外労働が特例的に認められます(B・C水準)。


医療機関が特例水準の指定を受けるためには、医師の労働時間短縮計画案を作成し、評価センターによる審査を受ける必要があります。

その後、都道府県から特定労務管理対象機関の指定を受けることが必要です。

手続きについては、各都道府県の要綱や様式を確認して進めてください。

各水準については、以下の表のとおりです。

水準対象
年の上限時間
A水準全ての勤務医全ての勤務医に対して、原則的に適用されます960時間
連携B水準地域医療確保暫定特例水準地域医療の確保のため、本務以外の副業・兼業として派遣される際に適用されます1,860時間(各院では960時間)
B水準高度な癌治療や救急医療など緊急性の高い医療を提供する医療機関で、地域医療の確保のため、寺院内で長時間労働が必要な場合に適用されます1,860時間
C-1水準集中的技能向上水準臨床研修・専攻医の研修のために、集中的に経験を積む必要があり、長時間労働が必要な場合に適用されます1.860時間
C-2専攻医を卒業した医師の技能研修のために、水準高度な技能の習得のため長時間労働が必要な場合に適用されます1,860時間

年間960時間や年間1860時間(月間100時間未満)は上限に過ぎません。

上限までの時間外労働が許されているとしても、過労死ラインとされる80時間を超えています。

上限の範囲内であっても、それを義務付けるものではなく、安易に時間外労働を許可するものでもありません。ですから、慎重に対処し、許容しない体制の構築が必要です。

医師の健康確保のためのルール

長時間勤務の中でも勤務医の健康を守るために、『面接指導』『医師の勤務間のインターバル』のルールが設定されます。

『面接指導』とは、月に100時間以上の時間外・休日勤務が見込まれる医師に対して行うもので、必要に応じて管理者から働き方の見直しを打診されたり、就業上の措置が講じられたりします。

この『面接指導』は、A水準・B水準・C水準とすべての水準において義務化されています。


『医師の勤務間のインターバル』とは、十分な休息時間(睡眠時間)を確保するために設定されるものです。

一日の勤務終了から翌日の出社までの間に、適切な休息を取ることが医療機関の管理者へ義務付けられています。

ただし、医療現場では緊急の業務も発生するため、休息中でも対応が求められることもあります。

その場合には、代償休息が与えられることとなりました。

医療機関の代償休息付与のルールは、勤務している医療機関の就業規則などで定められることになります。


さらに、シフト作成時には、適切な休息が確保されていることが求められますので、十分注意しましょう。

なお、この『医師の勤務間のインターバル』はA水準では努力義務、B水準・C水準においては義務化されています。



医療の2024年問題に対応するために

2024年問題においての医療課題は、適切な労務管理の促進と、タスク・シフティングの推進が含まれます。

医師の労務管理の適正化

医師の不規則な勤務実態を、適切に把握する勤怠管理が医師の働き方改革には不可欠です。

しかし、医療機関の複雑な勤務形態と緊急対応の必要性から、正確な労働時間の把握が難しいのが現状です。

【問題】

打刻などによる労働時間の記録や管理ができていない医療機関も少なくなく、各医師の労働時間の見える化が求められている中、現実的ではない現場も多いことでしょう。

また、労働時間と自己研鑽の境目があいまいであり、医師の教育に関して今後、時間外勤務との調整が求められます。

【対策】

まず重要なのは、医師自身が自らの健康を守るための労働時間管理を理解し、各医療機関の労働時間ルールを把握することです。

特に、宿直や研鑽の労働時間の取り扱いには注意する必要があります。

療機関側は、医師が各医療機関の労働時間ルール(宿直や研鑽の労働時間の取り扱い)を再確認できるような周知が必要です。

また、副業や兼業先の多い医師は、労務管理に関する記録や申請の手続きが煩雑になりがちです。

医師のこのような状況を軽減するために、IDカードによる打刻やスマートフォンを用いた勤怠管理システムなどのICT技術を活用することが提案されています。これにより医療機関側は、医師の負担を減らし、効率的な労務管理が実現できます。

タスク・シフティング(業務の移管)の推進

タスク・シフティングは、医師の負担を減らすために、医師以外の医療従事者(看護師や薬剤師、臨床検査技師や医師事務作業補助者など)に業務を委譲する取り組みです。

例えば、特定行為研修を受けた看護師が医師の手順書に基づき特定の処置を行ったり、薬剤師が病棟や手術室で薬の管理や説明を行ったりします。

これにより、多職種が協力して医師の業務負担を軽減し、安全かつ効果的な医療を提供します。

ただし、タスク・シフティングを行う際には、医師以外の医療従事者の業務負担が過度に増えないよう注意が必要です。

医師の働き方を支援する制度と対策

医師としての労働環境を整えるために、育児・介護制度やハラスメント対策が不可欠です。

多くの女性が医師として活躍していますが、妊娠や出産、育児などのライフイベントとキャリアの両立が難しいケースも少なくありません。

医療機関側は、産前産後休業や育児休業の取得はもちろん、時短勤務や時間外労働の制限などの柔軟な働き方を推進し、女性の医師の活躍をサポートするべきです。


同様に、産後パパ育休や男性の育児休業取得も積極的に推奨されるべきです。

ハラスメントの種類は多岐にわたり、セクシャルハラスメントやパワーハラスメント、妊娠・出産・育児に関するハラスメントなどが挙げられます。

これらに対処するには、適切なポリシーの策定や教育、被害者支援の仕組みや相談窓口の整備が必要です。

これらの対策は、医師の働きやすさや心の健康を支えるだけでなく、医療機関全体の生産性と効率性を向上させることにも貢献します。

まとめ

2024年4月1日以降、医師の働き方改革が本格的に実施されることになります。

この法改正では、労務管理の適正化やタスク・シフティングなどによる業務改善を通じて、医師の長時間労働を是正することが目指されています。

長時間労働の勤務医がいる医療機関では、医療の2024年問題に対処するため、柔軟で使いやすいシステムを導入するなどして、職種ごとの労働時間の把握と労務管理の効率化が重要です。それに加え、労務担当者だけでなく、経営側や医療従事者への法令周知や意識改革も重要です。

このような取り組みを通じて、医療機関全体でどのようにして医師のスキルを高め、医療の質を保っていくかを考えることが求められます。

医師の働き方改革に伴い、就業規則の改定や36協定の見直しが必要となる場合もあります。

自身の所属する医療機関の就業規則や36協定を再確認し、改定や見直しが必要な場合は、労務管理の専門家である社会保険労務士の協力を仰ぐことをお勧めします。



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